明治安田生命が、2013年度版「理想の上司」を発表しました。男女ともに1位は不動。池上彰さんと天海祐希さん。
http://career.oricon.co.jp/news/2022962/full/
私が注目したのは、男性3位のイチロー。実は昨年はランク外だったのです。
なぜ、このタイミングでイチローが上位に返り咲いたのか?
イチロー上位返り咲きの理由、私は「共感」だと思います。
イチローは孤高の人だから
彼はよく「孤高」という言葉で表現される。孤高の孤は、孤独の孤。
「イチローすごいよね。やっぱ凡人とは違うよね」
私たちはイチローの考え・姿勢に対して、自分とは一線を画する存在として見ていました。一線を画するとは、まさに字の通り、自分と彼の間に線を引くこと。違うグループだと認識していることに他なりません。
我々がそう感じるのは、彼の出す結果がズバ抜けているからということもあります。でも、それと同等以上に大きな理由として存在するのが、彼のミステリアス性ではないでしょうか?
多くを語らない、背中と結果で示すというイチロー本人の性格に加え、マスコミサービスも少ないから、私たちが彼の言葉を直接耳にする機会は限られます。
マリナーズが優勝戦線に毎年乗り切れない中、黙々と200本安打を続けるイチロー。「彼はなにをモチベーションに野球をやっているんだ?」 まわりの人には、彼ががんばれる理由がわからない。
そう、イチローは私たちにとって「わからない人」だったのです。
わからない人との関係性をつなぐ唯一の紐
ヒーローが自分とは別格で「わからない人」であったとしても、それが問題になることはありません。すごい人が、自分と一線を画するのは自然なことだと感じます。
一方、そうしたヒーローがすごい結果を出せなくなったときはどうでしょう? イチローで言えば、2011年にメジャーに行ってから初めて200本安打未達となりました。打率も0.272と、悪くはないけれども、イチローの打率としては少し物足りない数字。
彼がすごい人であり、一線を画する存在であり、「分からない人」だから、私たちは成績が下がったときの彼の苦悩にも、もがきにもなかなか共感することができません。気軽に「うん、わかるわかる。そういうことって、あるよね」とは言えない存在なわけです。
イチローと私たちをつなぐのは、あこがれという紐でした。そして、彼の成績が普通のプレイヤーレベルになるということは、そのあこがれの紐がほつれるということ。
そして、それは私たちとイチローをつなぐ関係性が弱くなることを意味します。それが昨年のランキングから彼が姿を消した理由でしょう。
イチローを変えたトレード
そんな彼が、本年度の理想の上司に再度ランクインしたのは、なぜでしょうか?2012年の成績がよかったから?
2012年のイチローの打率は0.283。安打は178本。トータルで見たとき、2011年と大きくは変わりません。しかし、ひとつだけ大きく変わったことがあります。
多くの方がご存知の通り、シアトル・マリナーズからニューヨーク・ヤンキースへの電撃トレード。このトレードは彼自身が望んだことでした。
トレードの際ですら、多くを語らなかった彼ですが、ニューヨークに来てからは少し話が変わります。
まず、笑顔が増えた。まるで、野球少年のそれ。
そして、打率が上がった。ヤンキースに移籍してからだけの集計で0.322。
どうやら、イチローにとってヤンキースはあこがれのチームだったよう。ヤンキースのピンストライプのユニフォームを指して「崇高な感じ」と表現したという説もあります。
また、ヤンキースには優勝争いに携わる緊張感があります。その2つの要素が、イチローに影響を与えたのでしょう。
あこがれと共感の、2本の紐
この変化を目にしたとき、私たちから見たイチローは、「わからない人」から「ちょっとわかる人」に変わったのではないでしょうか。「やっぱ、イチローもあこがれのチームに入れたら喜ぶんだ」とか「優勝、したいよね」みたいな感じで。
わかる人とは、共感できる人です。
私たちとイチローをつなぐ関係性は、あこがれという紐1本から、あこがれの紐と共感の紐の2本になりました。つながりが強くなった。その結果が、理想の上司に再度ランクインなのではないかと、私は感じています。
わからない人・わかる人
わからない人から、わかる人へ。その視点を持って、再度ランキングを見てみると、面白いことに気付きます。男性も女性も、圧倒的に、わかる人が多い。
男性の1位 池上彰さんは、わかりやすく話すことの第一人者です。関根勤さんや、所ジョージさん、松岡修造さんは、表裏がないイメージがあります。(阿部寛さんは、ちょっとわからないけど…)
女性の1位 天海祐希さん、2位 江角マキコさんは、竹を割ったような性格というか、言いたいことを気持ちよく口にするというイメージがあります。少なくとも私には。
今の日本で、わかる人であることが求められているように感じます。